名前をつけられない感情と、きみを見ていた時間
「くすみ色」は、強い出来事や明確な結論を描く曲ではありません。
この曲の中心にあるのは、何かが起きた“あと”に残る感情、そしてそれに最後まで名前を与えられなかった時間です。
歌詞
「くすみ色」
風が触れた瞬間、胸がざわついて
きみの声が世界を少し揺らした。
ポケットの小さな空洞を覗けば
影が揺れてめまいがするのに
なぜか目を離せなかった。
触れた気配の奥で
心が開ける音がして、
ぼくはまだ名前をつけられないまま
俯瞰と衝動のあいだを漂っていた。
くすんだ曇り空のように
曖昧で掴めない感情でも、
ただの一次的ではないと
胸の奥が静かに騒いでいる。
街の匂いがよって離れて
きみの影が隣で揺れた時、
拾い忘れた気持ちだけが
そっと背中を押した。
間違いも正しさも
すり抜けていくくせに、
それでもぼくは
まだ名前をつけられない。
曖昧な距離の中で
俯瞰と衝動が交わり、
夜の色が変わっていく。
淡くても消えなくて、
ぼくはただ、
名前をつけられないまま
きみを見ていた。
ぼくはただ、
名前をつけられないまま
きみを見ていた。
ぼくはただ、
名前をつけられないまま
きみを見ていた。
きみの声が、世界を少し揺らした
冒頭では、「風」「声」「揺れ」といった、はっきり形を持たないものが重なります。
ここで描かれているのは、劇的な出来事ではなく、
ほんの一瞬の違和感や、胸のざわつきです。
ポケットの小さな空洞や、影によるめまいは、
心の中に生まれた説明できない欠落や不安の象徴でもあります。
それでも「目を離せなかった」という一行に、
きみへの意識が自然に固定されていきます。
俯瞰と衝動のあいだ
この曲では何度も、「俯瞰」と「衝動」という相反する視点が登場します。
冷静に状況を見ている自分と、
理由もなく引き寄せられてしまう感情。
どちらかに振り切ることはなく、
そのあいだを漂い続ける状態こそが、この曲の居場所です。
「まだ名前をつけられないまま」というフレーズは、
感情を急いで整理しない姿勢をそのまま表しています。
くすんだ空と、一次的ではない感情
タイトルにもなっている「くすみ色」は、
鮮やかさでも暗さでもない、中間の色です。
曖昧で掴めない感情でありながら、
「ただの一次的ではない」と胸の奥が騒ぐ。
この部分では、
一時的な高揚や気まぐれでは終わらない、
長く残ってしまう感情の存在が静かに示されています。
きみの影が、隣で揺れていた
後半では、街の匂いや影といった日常の風景の中に、
きみが自然に溶け込んでいきます。
「拾い忘れた気持ちだけが そっと背中を押した」という一節は、
自分では気づかなかった感情が、
遅れて追いついてくる感覚を描いています。
正しさも間違いもすり抜けていく中で、
それでもなお残り続けるのは、
きみを意識していたという事実だけです。
名前をつけられないまま、きみを見ていた
この曲は最後まで、
感情に名前を与えることをしません。
繰り返される
「名前をつけられないまま きみを見ていた」
というフレーズは、
理解や定義よりも、その時間をそのまま抱えていたことを示しています。
淡くても、くすんでいても、
消えなかった感情。
それを無理に整理せず、
ただ見つめ続けていた——
それが「くすみ色」という曲です。

